エビデンス
この本は、
何を根拠にしているのか。
『書くカウンセリング』の背景にある心理療法・ACTと、「書くこと」に関する研究を、分かっていることと、まだ言えないことに分けて紹介します。
本書の背景にあるACT
感情を消すのではなく、
感情があっても選べるようにする。
ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)は、認知行動療法の流れに位置づけられる心理療法です。不安や自己批判をなくすことだけを目標にせず、考えや感情との関係を変え、自分が大切にしたい方向への行動を増やしていきます。
ACTが中心的に扱うのが「心理的柔軟性」です。これは、つらい考えや感情があるときにも、それだけに行動を決められず、状況に応じて自分の行動を選び直せることを指します。
うつ病を対象としたRCTの統合では、一定の改善が報告されています。
2025年のメタ分析は、13件のランダム化比較試験・1,362人を統合し、対照群と比べて抑うつ、不安、心理的柔軟性の改善を報告しました。ただし、エビデンスの確実性はアウトカムにより「低い」から「中程度」と評価されています。
セルフヘルプに近い形式でも研究されていますが、効果は大きくありません。
インターネットを使ったACTのメタ分析では、心理的柔軟性への小さな効果が報告されています。一方、能動的な比較条件に対しては、有意な差が確認されない分析もあります。
誰に、どの方法で行うかによって結果は変わります。
学生、抑うつを持つ人、身体疾患を持つ人など、対象や実施形式は研究ごとに異なります。ACTという名前だけで、すべての人に同じ効果があるとは言えません。
「書くこと」の研究
書けば必ず楽になる、
という研究結果ではありません。
感情や体験を書く介入は、長く研究されてきました。しかし、「何を書くのか」「誰が書くのか」「何回行うのか」「どのような支援を加えるのか」によって、結果は大きく異なります。
複数のランダム化比較試験を統合した研究には、小さな効果や特定の対象での改善を報告するものがある一方、心理的・身体的な健康に一貫した効果を確認できなかった分析もあります。書くこと自体を、万能な治療として扱うことはできません。
紙の上に出す、距離をとって眺める、繰り返しや価値を確かめる、次の行動を選ぶ、という構造化されたエクササイズです。そのため、一般的な「表現筆記」の研究と完全に同じものではありません。
この本について言えること
背景にエビデンスがあることと、
この本の効果が証明されたことは違う。
『書くカウンセリング』は、ACTや文脈的行動科学の考え方を背景に、読者が一人でも取り組める書き込み式のエクササイズとして構成されています。
ただし、ACTの治療研究や、一般的な書く介入の研究だけをもって、この本を使えば誰にでも同じ効果が生じる、あるいは医療や心理療法の代わりになる、と結論づけることはできません。
このページで約束すること
効果を大きく見せるためではなく、根拠と限界を分けて掲載します。今後、本書そのものについて正式な調査や研究を行った場合には、対象、方法、比較条件、結果、限界を確認できる形で公開します。
参考文献
このページで参照した主な研究
- 01ACTの抑うつ・不安・心理的柔軟性への効果を検討したメタ分析(2025)
- 02インターネットベースACTのトランス診断的メタ分析(2021)
- 03インターネットベースACTのプロセス指標に関するメタ分析(2022)
- 04ストレス体験を書く介入の健康効果に関するメタ分析(2009)
- 05トラウマ経験者への書く介入のネットワーク・メタ分析(2021)
研究の追加や更新に応じて、このページも改訂します。